WeWorkの戦略 - コスト削減とデータカンパニーとしての未来

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驚異的な成長の裏にある狙い

2010年の創業以来、毎月平均6.8拠点という驚異的なスピードで世界に拠点を展開してきたWeWorkですが、その裏にあった戦略とはどんなものでしょうか?

2019年のIPO失敗以来、WeWorkは窮地に追い込まれています。しかし、それは彼らのビジネスモデルの失敗を意味するものではありません。窮地に追い込まれた後でも、WeWorkのオフィスの成長率は高いレートで維持されていたと言われています。(COVID-19の流行以降は著しく下落しているはずですが・・・)。これはSpace-as-a-Serviceのビジネスモデルと起業家精神に満ちた彼らのコミュニティにはブランドの失墜の後にも利用せずにはいられない価値があることを示しています。

さて、戦略の話に戻るとWeWorkはアメリカで成功を収めると多額の資金調達を実行し始めた2015年から新しいビジョンを持つようになります。それがグローバル化です。彼らは自分たちのビジネスについてグローバルプラットフォームであると繰り返し述べており、280のターゲット都市を世界中に定め、海外拠点の買収など海外展開を加速させ始めます。同時にそれまで個人事業主やスタートアップを顧客の中心に据えていたところから大企業のコミュニティへの参加を促すよう舵を切ります。自分たちをイノベーションのプラットフォーム、そして、安価で柔軟なオフィスを提供する分散オフィスの提供者として大企業に向けてマーケティングをはじめ、2019年時点では収益の40%程度を大企業から得ていることを公表しています。

Space-as-a-Serviceのビジネスモデルにイノベーションを起こすコミュニティというソフトを載せて大企業相手にも売りにかかったのです。なぜこのような拡大戦略をとったのでしょうか?

キーワードは"利益率の改善"です。

会計財務の観点から考えると、利益率を改善するために企業がとることができる行動は2つしかありません。コストを維持したまま売上を上げるか、売上を維持したままコストを下げるか、のみです。以下の2つがWeWorkの目的だったと考えています。

  1. 規模の経済によるコスト削減
  2. オフィスとコミュニティのデータ収集によるデータカンパニー化

規模の経済によるコスト削減

上場申請のために提出された目論見書 Form S-1に公開されているWeWorkの損益を見ると2016年から2019年まですべてが赤字です。しかしながら、2016年は原価率がほぼ100%であるのに対して、2017年、2018年と続けてその原価率は下がっていきます。同様に広告宣伝費やその他の費用の売上に対する比率も低下していきます。オペレーションが効率的になったとも言えますが、一般的に買い手の購買力が高ければ高いほど、費用の単価は下がっていきます。この効果を利用して、WeWorkは原価率を下げることを目指しました。

同時に進めたことはマーケットの拡大です。2016年当初、111の都市に展開していたWeWorkはターゲットを一気に280都市にまで拡大します。規模の経済を働かせたコスト削減に合理性を持たせるためにはまだまだ拡大する余地が大きいことを示す必要がありました。Form S-1の中では進出ターゲットを全世界の都市280に拡大したことで、その市場は一気に3,000兆円まで広がり、全体市場の占有率はわずか0.6%でしかないと強調しています。

つまり拡大の余地は大きく、そして規模の経済によるコスト削減の余力があることを示す必要があったのです。

 

オフィスとコミュニティのデータ収集によるデータカンパニー化

そして、最後にオフィスおよびコミュニティに関するデータの収集です。21もの会社を買収したWeWorkですが、Case, Inc.やSpaceIQといったオフィスに関連するデータを取り扱う企業が多く、これらを基礎に登場したサービスがPowered by Weというデータを利用したオフィス関連コンサルティングサービスでした。WeWorkはオフィス運営において収集したデータを利用して様々な機械学習モデルを実装していたことが知られています。例えば、ミーティングルームがどれくらい使われるのか?どれくらい必要なのか?といったシンプルな問いであっても、これに答えるのは簡単ではありませんが、収集したデータを基礎に学習したWeWorkの機械学習モデルは入居者のミーティングルームの利用時間の予測精度を40%も向上したことが彼らのブログで報告されています。

そして、コワーキングスペース事業で収集したデータと蓄積したノウハウを利用し、利益率を改善するため、WeWorkは利益率が高いコンサルティングビジネスに乗り出し、データカンパニーへと変貌することを目指したというのが私が考えているWeWorkの戦略です。いくつかの英文レポートを読むと、WeWorkはPowered by Weを次の中核事業に位置づけていたことがわかります。つまり、コワーキングスペースはイノベーションを生むため、業務効率を上げるために最適なオフィス設計をコンサルティングするデータとノウハウを蓄積するための壮大な実験場だったのです。

 

アマゾンも同じ戦略を使った

以上が私が考えるWeWorkのデータカンパニーへの成長を目指した戦略です。実は収益化できない中核事業で集めたデータなどのデジタル資産を利用して他方面でマネタイズするという戦略は珍しいものではありません。例えば、長らく利益を出さないスタートアップの巨人として知られていたアマゾンも同じ戦略をとっています。利益が出ていなかったオンラインリテールビジネスを運用するために構築した物理資産であるサーバーを仮想化し、余剰部分をAWSとして売り出して、莫大な収益を上げたことは有名な話です。

では、なぜこの合理的な戦略を実行したWeWorkが窮地に陥ることになったのでしょうか。次回はWeWorkの驚愕の財務状態を白日の下にさらした2019年6月末時点の財務情報を分析し、その問題点を探っていきたいと思います。